こんばんは、あいてぃ~です。
本日は今村昌弘さんが執筆されている「屍人荘の殺人」シリーズから感じるクローズド・サークルの魅力について考えてみました。
デビュー作にしてミステリ部門4冠を達成した屍人荘の殺人を読むことで、きっとあなたもクローズド・サークルのように本シリーズの虜となるでしょう。
「屍人荘の殺人」シリーズについて
紹介
簡単に「屍人荘の殺人」シリーズについて触れておきます。
本シリーズは、後述しますクローズド・サークルを舞台とし様々なイベントを通じてミステリーが繰り広げられていきます。
現在本シリーズはスピンオフ作品を除き3作品存在し,こちらがメインストーリーとなっています。その中でもシリーズ1作品目である屍人荘の殺人のあらすじの一部を以下に要約・引用します。
――葉村譲と明智恭介は、同大の探偵少女剣崎比留子とペンション紫湛荘を訪れる。しかし、想像だにしなかった事態に見舞われ、一同は籠城を余儀なくされた――
創元推理文庫 屍人荘の殺人 表紙裏面あらすじより要約・引用
本あらすじから、何かのイベントによって主人公一行は立てこもる必要に迫られていることが分かるかと思います。
また、本シリーズは現実的に発生しえないような要素が設定に大きく影響しています。この現実離れした特殊な仕掛けを巧妙に作品内に取り込んでいることで、他ミステリ作品とは異なる新たな扉を開くような、そんな作品となっています。
一押しポイント
私の考える本シリーズの一押しポイントは、主人公である葉村と探偵少女である剣崎のシリーズを通して形成されていく関係です。
少々話は逸れますが、本シリーズは様々なミステリ作品の影響を受けていることを感じる節が多いです。
主人公は屈指のミステリ作品マニアであり、ミステリ愛好会の入会前後の大学でのやりとりから、著者自身かなりミステリ作品を読み込んでいることが伝わります。
(と、私は考えていたのですが、実際のところ今村氏はミステリマニアというわけではなく、成年後にようやく腰を据えて読み始めたとのことでした。(え?そうなの?))
また、作品全体を通してシャーロックホームズとその助手ワトソンの関係を投影しつつもどこかぎこちないような主人公と探偵少女の関係を私は応援したくなってしまいました。
道中のイベントや結末に圧倒される
本シリーズは道中のイベントやその結末に終始圧倒されることがほとんどでした。
ミステリ作品といえば、王道少年漫画のように最終的には正義が勝利する、というようになんとなく結末を想像できてしまうような、そんな先入観がある方は特にミステリ作品初心者には多いのではないでしょうか。
しかし本シリーズは道中に差し込まれた何気ない会話が伏線になっていたり、その結末が全く想像できないながらも何一つ矛盾のない気持ちの良い犯人特定ロジックに圧倒されたりと、終始感情を揺さぶられるような内容となっています。
私自身あまりミステリ作品は読まないのですが、名前を聞いたことがあるようなミステリ作家が口をそろえて絶賛していることや、先述しました通り数多くの賞を受賞した作品であることからもその質の高さは保証してよいと言い切れるでしょう。
クローズド・サークルについて
本題に入ります。本章からクローズド・サークルについて様々な角度から掘り下げることで、その魅力に迫っていこうと思います。
クローズド・サークルとは
そもそもクローズド・サークルとはなんでしょうか。以下Wikiからの引用です。
クローズド・サークル(closed circle)とは、ミステリ用語としては、何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品を指す。
クローズド・サークルは密室の一種とされることも多いが、密室と非密室の境界を問題とする不可能犯罪ではなく、ドラマを室内に限定する密室劇である。
Wikipediaより引用・要約
屍人荘の殺人のあらすじにも、「想像だにしなかった事態」によって「籠城を余儀なくされた」とあり、何らかの事情で外とのつながりが断たれた状況で発生するミステリ作品ということで、まさにクローズド・サークルであると言えるでしょう。
現実世界では、ミステリ成分を抜きにすると自然災害によって発生することがほとんどでしょうか。
また引用2文目にある通り、厳密には密室系ミステリとは異なり、話のステージがある一定の空間内のみに限定される密室劇のことであるとあり、一般的な密室殺人などを解明していくといったミステリとは少々趣が違うようです。
密室系のミステリはこれまでも本や映画・ドラマなどで数多く取り上げられてきているかと思いますが、本に関してはクローズド・サークルをテーマとした作品は以外にも少ないようで、Wikipediaの関連リンクには20冊程度のみの紹介でした。(注意書きあり)
「屍人荘の殺人」シリーズの持つクローズド・サークルの魅力
「屍人荘の殺人」シリーズは単純なクローズド・サークルとは異なります。
それは「特殊設定」が含まれていること。そしてその設定によって結果的にクローズド・サークルが形成されてしまうというところにあります。
従来のクローズド・サークル作品では、雪崩によって山荘に取り残されてしまう・事故によって外界との通信手段を失ってしまう、といった形でどこか自然発生的なクローズド・サークルでした。
著者の今村氏は屍人荘の殺人執筆にあたり、密室ものを前提としつつ映画ではよく見る場面でありながら、殺人が起きたことはないのではないか、との思いつきから着想を得たとのことです。
例として有名なゲームであるバイオハザードシリーズでは、世界がゾンビパニックに襲われる中主人公はその原因を突き止め、協力して現状を打破していくといった流れですが、主人公同士でゾンビパニックによる言い争いや内輪揉めみたいなものは確かに少ないように思います。
ファンタジー系の困難に直面した主人公はその原因を協力して突き止める――。今村氏はこれに密室と殺人ミステリーを掛け合わせることを考え付いたのだろうと思います。
そうして出来上がった新たな形でのクローズド・サークルは他作品には無いような魅力を放つシリーズ作品となっており、今なお売れ続けているのだろうと考えます。
まとめ
まとめです。
本記事では「屍人荘の殺人」シリーズについて軽く触れた後に私の考える一押しポイント等についてまとめた後、本シリーズならではのクローズド・サークルならではの魅力について考えてみました。
とても力強いシリーズですので、皆さんもぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
また、著者である今村氏は屍人荘の殺人での著者インタビューにて本書を通じた著者の考え方に触れることができます。
私としては「屍人荘の殺人」シリーズは初心者でも読みやすくそれでいてミステリに厚みのある内容ばかりのため、作者自身もとんでもないミステリマニアだと考えていたのですが実際には現実逃避をした結果生まれたシリーズであったという点に笑ってしまいました。
作品・著者ともに魅力的な「屍人荘の殺人」シリーズ。とてもおもしろい一気読みの時間でした。
以上です。
追記:表紙イラストがとてもかっこよくて好きです。私はイラストに惹かれて購入した層なので日ごろミステリ作品に触れないような方でもとても楽しめることを保証します。